2009年12月11日
007~021 J・S・バッハ
007 バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティ-タ
BWV1001~6
ずいぶん昔からシェリングのグラモフォン盤の評価がたかいが、わたしとしてはもうすこし柔軟で美しい表現に酔いたい。この感想は初めてシェリング盤をきいた20代のときからだ。当時はシゲティやシェリングのバッハには「精神性」という言葉が冠せられてこれを侵害すべからず、という空気が濃厚だった。
まずシェロモ・ミンツのグラモフォン盤を推す。それと並んでグリュミオ-のフィリップス盤を。どちらも美音で自在に歌って、それでいて情に溺れることのないしっかりした歌になっている。
008 バッハ 無伴奏チェロ組曲(全曲) BWV1007~12
これもカザルスの1930年代の録音がよく推薦される。わたしも最初にもとめた。今になったから言えることだが、あの録音状態では素晴らしい演奏なのかどうか見極めることが困難ではないだろうか。そのくらい音がわるい。
わたしとしてはジャンドロンによる美しい歌い方に、ひかれる。この曲については堂々とした風格がほしい向きにはシュタルケルの1963~65年の録音をお薦めする。どちらの録音もフィリップスで、チェロの美音があますところなくとらえられている。
009 バッハ ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ(全曲)
BWV1014~9
エラ-トから出ているバルヒェット(vn)とヴェイロン=ラクロワ(cemb)の組み合わせがいまのところいちばん気に入っている。バルヒェットのヴァイオリンにはしっかりした堅さがあって、それでいて野放図に大きくならない。こうしたアンサンブルをやるにはうってつけの音だと言える。その点でグリュミオ-も得意にする曲ではあるまいかとディスクをもとめてみたが(サルトリのチェンバロ)、あまりよくなかった。以前から評判のたかいシェリングとヴァルヒャの組み合わせは、なんだか合わせるのに必死になっているようで、きいていて愉悦感がない。
010 バッハ フル-ト・ソナタ集(全集あるいは選集)
BWV1030~5、1020、1013
これは、どのフル-ト奏者が好きかで決する。わたしはニコレがもっともバッハの再現に適すると考えるから、アルヒ-フから出ている盤(チェンバロはリヒタ-。1969年と73年の録音)を推す。BWV1013の「無伴奏フル-ト・ソナタ イ短調」の演奏など、実に素晴らしい。
011 バッハ チェロ・ソナタ(全曲) BWV1027~9
原曲がヴィオラ・ダ・ガンバのための作品であるから、チェンバロをレオンハルトが受け持ってガンバをW.クイケンあるいはコッホが弾いたもの(どちらもハルモニア・ムンディ盤)ということになる。しかしわたしはガンバやバロック・チェロの音色がどうも好きになれない。そこでフルニエがル-ジイチコヴァと組んだ盤(エラ-ト)か、シュタルケルが同じル-ジイチコヴァと組んだ盤(DENON)をえらぶ。
012 バッハ オルガン作品集
下敷きにしている『名曲名盤500』にこの選曲があるので標題になったが、わたしはバッハのオルガン曲というのはあまりまとめて聴くと、どれも同じにきこえてくるものだという考えの持ち主である。もとめるとすればヴァルヒャの全集であろうが(新旧2種類がある。どちらも同じようなものだ)20枚ちかくになる全集を買う余裕があるなら013から016にかけて選ぶおのおののオルガン曲のCDで満足しておいて(それとてもわたしは2枚か3枚のCDでじゅうぶんだと思う)、他のディスクを探究するほうに力をそそぐべきであろう。
013 バッハ トッカ-タとフ-ガ ニ短調 BWV565
014 バッハ 幻想曲とフ-ガ ト短調「大フ-ガ」 BWV542
015 バッハ パッサカリアとフ-ガ ハ短調 BWV582
うまい具合にこの3曲が1枚に収まっているCDがある。マリ-=クレ-ル・アランがエラ-トに1978年から1980年にかけて録音したものだ。わたしはオルガニストとしてのアランの資質をたかく評価している。ヴァルヒャはリズム感覚に難があるし、リヒタ-のオルガン演奏はときとしてややヒステリックになる傾向がある。アランの演奏にはそうした問題はなく、穏やかで平明な地平がひろがる。このCDには有名な「小フ-ガ ト短調 BWV578」「コラ-ル 目覚めよと呼ぶ声が聞こえ BWV645」も収録されている。
016 バッハ シュ-プラ-・コラ-ル(全曲) BWV645~50
ことこの曲目についてはどうしてもヴァルヒャに頼らねばならない。しかしいまのところ2枚組でしか入手できないようだ。015でアランの「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」をきいて、心底気に入った方はもとめられるべし。ここで書いておくが、「オルガン演奏における古楽器演奏派」とも言うべきコ-プマンの演奏は、やはりアド・リブ的な要素がつよすぎてわたしには馴染めない。チェンバロを弾くときにくらべて、オルガンに向かうと悪乗りする傾向があるようだ、この人は。
017 バッハ インヴェンションとシンフォニア BWV772~801
018 バッハ イギリス組曲 BWV806~11
019 バッハ フランス組曲 BWV812~7
020 バッハ パルティ-タ(全曲) BWV825~30
以上の曲については、やはりどうしてもグレン・グ-ルドの録音を挙げることになる。レオンハルトのチェンバロ演奏やシフによるピアノ演奏もすぐれているが、やはり2巡目にまわることになる。「インヴェンションとシンフォニア」については、グ-ルドの演奏はあまりにも風変わりかもしれないので、ごく規範的とも言うべきドレフュスのチェンバロ演奏(アルヒ-フ)を挙げておく。
021 バッハ 平均律クラヴィ-ア曲集 第1、2巻(全曲)
BWV846~93
この曲集については昔からリヒテル、グ-ルドの競争が激しい。まるでスタイルがちがうのだから同一の俎上に上げること自体に無理があるのだが、わたしとしてはどちらの演奏家のディスクをきいていても不満が残る。リヒテルをきいているときは「なんとも重い演奏だなあ」、グ-ルド盤をきいているときは「風変わりだなあ」ということになって、あまりきかないうちにSTOPボタンを押すことになる。
わたしが聴いていて「ああ、いい演奏だ」と思うのはグルダ盤。1972年にフィリップスに録音したものだが、音がとてもいい。音がいいというのは録音もいいし、グルダの出す音もいいという両方である。グルダはここで、ベ-ト-ヴェンをひくときとはまるで違った、透明感のある音をひびかせている。
Posted by コクマルガラス at 12:38│Comments(0)│TrackBack(0)